条例における前文の意義
「中心になる考え方」。これが条例における前文の意義です。但し、国の法律でも前文がある法律は、少数派です。「新たな概念」や「幅広い分野」。これらは、前文を書くか否かのヒントになるでしょう。
生物多様性基本法(2008年)や教育基本法(2006年)、高齢社会対策基本法(1995年)などには前文があります。生物多様性は、新しい概念です。国連では1993年、生物多様性条約が発効されました。その結果、世の中の流れとしては、それまでの「自然保護」から「生物多様性」へとシフトチェンジしつつあります。全部改正された教育基本法の場合、前文は一部修正された上で、残されています。また、高齢社会へは、福祉行政だけに留まらない広い分野の協力が不可欠です。
ケーススタディ
私は2017年9月議会一般質問において、厚木市環境基本条例の改正について質問。その中で、前文について取り上げました。私は、「環境配慮のための情報共有」を前文の中心となる考え方として前文を一部修正することを提案しました。青木総務部長は、「厚木市自治基本条例に前文があるため、他の条例では不要 。環境基本条例改正後は、削除する」との答弁でした。厚木市として、前文は書かないとする唯一の根拠は自治基本条例の存在です。
確かに、自治基本条例第5条第3項に、「情報共有の原則」があります。また、第21条では情報公開について書かれています。しかし、情報公開制度は、行政の説明責任が目的です。情報公開制度と「環境配慮のための情報共有」は、似て非なるモノ。目的が違います。情報公開制度は、行政の説明責任。「知らしむべからず、依らしむべし」を防ぐことが目的です。一方、私の提案は、情報共有による事前調整が目的です。公共工事の内容を担当課しか知らない現状を改善し、計画発表前に、行政内部で情報と知見を活かす組織づくりを目指しています。
厚木市の答弁 |
厚木市自治基本条例に前文があるため、他の条例では不要 。改正後は、削除する。 |
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私の提案 |
「公共工事の内容を担当課しか知らない現状の改善」=「環境配慮のための情報共有」。前文の中心となる考え方として示してはどうか? |
「条例の重要な目的が厚木市自治基本条例の前文でも条文でも触れていないならば、条例の前文でその旨を示すことは、決しておかしなことではない」。これは、横浜国立大学教員の見解です。複数の大学教員に見解をお尋ねしたところ、言い回しは違ったとしても同様な見解でした。
環境は福祉と同様、一つの行政分野にとどまりません。但し、福祉との決定的な違いがあります。福祉には介護事業所やケアマネージャー等が存在し、地域包括ケア社会の構築が目指されています。ところが、環境には専門職や事業所があちこちに存在する訳ではありません。だからこそ、行政主導による調整能力が必要です。
公共工事の計画発表後、「そこには希少種がいる!」と論争になる事例は全国的に幾らでもあります。天然記念物アユモドキの生息地に建設を発表した京都府亀岡スタジアム計画は、その一つ。あつぎこどもの森公園との名称となった(仮称)健康こどもの森も同様でした。こうした事態が起こる背景としては、行政内部における情報共有と調整が不十分であるためといえるでしょう。
厚木市は2017年7月14日、私の環境基本条例改正案を基に経営会議で協議。2018年2月議会に条例案を提案する予定です。
今後、どのような展開となるでしょうか。
厚木市自治基本条例より抜粋 |
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第5条 市民、議会及び市長等は、自治の基本理念にのっとり、次に掲げる原則を定め、自治を推進する。 (3) 情報共有の原則 ア まちづくりにかかわる情報が貴重な共有財産であることを認識すること。 イ 保有する情報を分かりやすく公表し、情報の共有を図ること。 (4) 説明責任の原則 ア 相互に説明責任を果たすこと。 イ 説明は、分かりやすいものであること。 (情報の公開等) 第21条 議会及び市長等は、行政文書を分かりやすく作成し、かつ、適正に保管するための仕組みを整備するものとする。 2 議会及び市長等は、保有する情報の公開を市民が請求することができるよう必要な措置を講ずるものとする。 (個人情報の保護) 第22条 市民、議会及び市長等は、市民の権利利益の保護を図るため、個人情報を適正に管理し、及び利用しなければならない。 2 議会及び市長等は、保有する個人情報の管理等について必要な措置を講ずるものとする。 |