ケニア便り(その1:98.7.19号) |
1. 日程 |
4月 8日 日本出国 4月10日 ケニア着 現地訓練開始 5月19日 現地訓練終了 5月20日 配属先に派遣 |
2. ケニアでの現地訓練(4月10日〜5月19日) |
ケニアの公用語は、英語とスワヒリ語の2つ。だが、学校の授業は英語でやるので 、福島県二本松での派遣前訓練は英語。しかし、日常生活などではスワヒリ語をよく
使うので、ここケニアの首都ナイロビで約3週間、スワヒリ語の研修があった。ケニア人の家庭にホームステイしながら語学学校に通うというものである。でもやはり3週間では短い。文法の基本的なところをすべて流すという感じなので、とても密度が濃くてついていくのが大変だった。修了した段階では、挨拶ができるくらいだけど、一応基本的なことは習い文法書や辞書が使えるようになっているので、後は自分で使いながら勉強するということになる。 ホームステイ先は、訓練生によって千差万別だ。私のホームステイ先は、エネルギー関係の会社の社員の社宅だった。2階建てで、寝室が5室、台所、食堂、居間に加えて広い庭がある。自動車も2台もっていたし、8月にもう一台買う予定と言っていた。自分はその寝室の一つを与えられ、10畳くらいの広さでしかもトイレ・風呂付き。語学学校にも毎日、自動車で送迎してもらった。日本での生活よりよっぽど豊かな生活だった。でも、ケニアの問題点の一つは公共企業の経営効率の悪さであり、それがこういうところに反映されているのでもある。 |
この期間中に、授業の一環としてであったりホームステイ先に連れられてナイロビ市内の観光地やマーケットなどを訪ねたり、配属先を一人で訪問したりして、次第にケニアでの生活に溶け込んでいった。 |
3. 配属後(5月20日から) |
(1)キアティネニ中学校 |
配属先は、キアティネニ中学校。生徒数250人で約半分が自宅からの通いで、残り半分が寮生活をしている、男女比3:2くらいの男女共学校である。先生は、校長、教頭と16人の普通の先生。内、一人がアメリカのピースコープからの派遣。そしてもう一人私がいるので、二人、外国人がいることになる。先生の内、ピースコープの一人も入れて3人が女性。 |
ケニアの学校制度は8−4−4制で、小学校が8年間、中学校が4年間、そして大学が4年間になっている。だから、中学校といっても年齢は14歳から17歳なので高校と言ったほうがいいかもしれない。(英語では、SecondarySchoolなので第2学校といったところでしょうか) |
学期は、今年1998年の例では、下記の通り。 1学期:1月 5日〜 4月 3日 2学期:5月 4日〜 8月 7日 3学期:8月31日〜11月20日 |
中間試験は、各先生が各自実施し、学期末試験は、2学期では、明日7月20日から2週間。8月4日には採点を終え、翌5日から夏期休暇に入ることになっている。 |
(2)立地 |
場所は、ナイロビから東に直線で40kmくらい、実際には、まずバスに1時間乗ってマチャコスという町に行き、バスを乗り換えてまた1時間のイイアニという小さな村だ。乗り換え次第だが、ナイロビから早くて3時間くらい、料金は、片道150ケニアシリング(約400円)。学校、私の住居、マーケットと道路沿いに並び、家からはマーケットにも学校にもどちらにも5分以内でいけるという便利な環境。バスも頼めばどこでも止まってくれる。赤道の僅かに南にあるけれども、標高が約1400mあるせいかとても涼しい。6月から8月は、1年で一番すずしい時期ということで、日中でも気温が20から25℃にしかならず、曇りがちなので肌寒いくらい。 |
(3)エネルギー、水道、電話、ゴミ |
電気も水道もガスもないけれどもなぜか電話線だけは引かれていて、学校には電話があるし、マーケットには公衆電話もある。エネルギーよりまず通信というのが、時代を反映している。水道もないけれど、貯水タンクが何個もあって、雨季の間に雨水を貯めてそれを使っている。それもなくなったら、パイプラインで引かれている水を使うことになるらしい。乾季が6月から10月で、僕も9月くらいからこのパイプラインの水を使う。このパイプ、地元の人たちはキリマンジャロウォーターといって、キリマンジャロから来ていると信じていが、100km以上離れていて間には谷もあるし、本当はどこから来ているのかよく分からない。電気は、学校には発電機があって夜間のみ発電し、寮生の勉強用に提供している。僕は照明も料理用の熱源も灯油を使っている。村の人たちは、灯油だったり、木炭だったり、薪だったり、多分所得に応じて違う。 |
ゴミが問題。みんな、生ゴミも可燃ゴミもプラスチックもなんでもその辺に捨てている。生ゴミ以外の消費量がまだ少ないからそれほどひどくはないけど、それでも散乱していてかなり汚い。自分は、アイデアがまだないので、とりあえず生ゴミはまとめて捨てて、可燃ゴミは燃やし、それ以外は貯めている。皆さん、何かいい知恵があったら教えて下さい。 ゴミと似ているのが排水問題。トイレは穴を掘って貯めていて、いっぱいになったら、埋めてまた別の穴を掘ることの繰り返し。人糞を肥料にすることもあるらしいが、滅多に使わないようだ。調理や洗濯、体の水浴に使った水は、垂れ流し。自分が理科の教師として直面している問題は、化学の実験で使った水の処理。実はこれも垂れ流し。他でよっぽど汚いことをしておいて(先進国の環境問題など)、ここで環境を口実に実験を制限するのも生徒がかわいそうだし、困っている。自分はまだ1年生の化学だけなのでまだあまり深刻な薬品は 使っていないが、実験室の棚には、クロムなどいろいろな薬品のビンがならんでいていずれ使わざるを得ない。これも、いいアイデアがあったら是非教えてほしい。 |
(4)言葉 |
ここでは3つの言葉が使われている。公用語である英語、スワヒリ語、民族語であるカンバ語の3つである。学校の中は公の場なので、基本的には英語とスワヒリ語のみ許されている。英語は、教室での授業と職員会議で用いられ、先生も生徒も雑談は英語とスワヒリ語のチャンポンだが、スワヒリ語の方が多い。彼らの民族語とスワヒリ語は似ているので、スワヒリ語の方が楽らしい。学校の外では、民族語であるカンバ語が主として話されている。 |
自分は、英語が少しと、挨拶程度のスワヒリ語しか話せない。スワヒリ語は、前に書いたようにナイロビでちょっと習っただけ。実際に授業を持つようになるとその準備とかもあって、なかなかスワヒリ語まで手が回らない。周りの同僚が雑談をスワヒリ語でやっていたりすると勉強しなくちゃとも思うが、英語の会議もボキャブラリーとスピードでついていけず、英語もやらなくちゃいけないし。で、だんだんスワヒリ語を忘れ始めているので、最近意識して復習している。しかし、30年近く勉強している英語でさえこのレベルと思うと先は長い。村での買い物やバスの乗り降りは、身振り手振りで悪戦苦闘している。 |
(5)授業と子供たち |
ケニアの中学校は、1時限40分で1日9コマ、週5日なので週45時限が普通。たいていの先生は、週20から25コマ教えている。自分は1年目ということでおまけをしてもらっていて、1年生の物理6コマと化学6コマの計12コマ(1年2クラスなので生徒にとっては、週3コマずつ)。普段は余裕があるけれど、中間試験の前後はその準備や採点と通常の授業の準備とでとても忙しかった。いずれにしても今後増やしていくことになる。 |
授業中の子供たちは、悲しいくらいおとなしい。おしゃべりしたり、寝ている生徒ももちろんいるけれども、ほとんどの生徒が聞いているんだか、考え事をしているんだか、という感じ。質問もしてこないし…。本当は物理や化学はとても面白い学問なのに、その面白さが伝わらないのがもどかしい。 |
ただ、ケニアのカリキュラムの内容が実に豊富で、それをすべて分かってもらおうと丁寧にやっていると、消化できない。そこで難しくてあまり重要そうでないところは省略したり、それなりの工夫を始めてはいる。それでも、現在、教えている内容の半分を生徒の半分が理解してくれているかどうか。プロの教師への道は厳しい。 |
その一方で、僕が持っているカメラや双眼鏡への好奇心、積極性はすさまじい。これは、生徒だけではなくて、大人(先生)も実は変わらない。理科の先生でさえ、双眼鏡は始めて見たという人がいる。理科以外の先生だとそれがなにか外観を見ただけでは分からない人も多いので無理はない。また、ここでは現金収入が少ないのでカメラを持っている人事体が少なく、日本では普通のズームレンズもここでは見当たらない。だから彼らには珍しくて仕方がない。しかし、好奇心こそ科学の原点 、その積極性を授業に結び付けられれば、もっと授業が面白いものになる。なんとかしたい。 |
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